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Key-Eyeとは?
これからの九州の情報化推進に向け、ひとつの
「鍵(Key)」となる、あるいは新たな「視点(Eye)」
となる話題を提供していこうとする思いを込め、
「Key-Eye」というネーミングにさせていただきました。
【2026年度執筆者】
名古屋工業大学 名誉教授
岩田 彰 氏
2026年度「Key-Eyeあるメッセージ」は岩田様よりいただくこととなりました。ご自身における永年のAI関連の研究活動に基づいた全4回のAIをテーマとしたコラムをいただきます。第一回は「AIの歴史」をテーマとして寄稿いただきました。

一般社団法人セーフティネットリンケージ
代表理事 高原 達也 氏
ICTを活用し、あらゆる人々が安心して暮らせる「ひとりでいてもひとりぼっちにしない社会」の実現に向けた「みまもりあいプロジェクト」の概要について寄稿いただきました。

「山田 健太 氏」
琉球大学 国際地域創造学部 教授
ビッグデータから観測される現象の背後のメカニズムを理解し数理モデルとして表現する研究に永年取り組んでこられた山田様より、観光分野への研究展開事例に関し寄稿いただきました。

「鬼束 ひろみ 氏」
株式会社オフィス・サプリ 代表取締役
ブランディング、カウンセリング両面からの会社経営支援を通じ、豊かな社会づくりに向けた取組みを進めておられる鬼束様より寄稿いただきました。

「公益財団法人 佐賀未来創造基金」
代表理事 山田 健一郎 氏
「志ある資金の循環」を通じ、誰もが自分らしく生きられる地域共生社会を目指した事業活動に取り組んでおられる(公財)佐賀未来創造基金様より寄稿いただきました。
先日、現在のデジタル社会における幸福とは何かに関する記事を目にする機会があり、改めて、この「幸福とは何か」について思いを巡らせたことがありました。一般的に幸福とは、「満たされた状態」「満足している状態」「不自由がない状態」といった、ある種の「結果」「現象」として捉えられることが多いのではないかと考えられます。ただ、この結果、現象は多少複雑で、同じ出来事であっても、ある人にとっては幸福であり、別の人にとってはそうではない、といったようなことは日常的によく生じます。つまり、幸福とは簡単に客観的定義ができるものではなく、人と他人、人と社会、人と環境等いった様々な関係性の中で、その意味合いが変化していく性質を持つものである、といえるのではないでしょうか。このことを少し哲学的なニュアンスで述べるとすれば「幸福とは多様な関係性の中で生じる感覚のひとつ」と呼べるのかもしれません。
さて、その幸福に対して、デジタル技術はこれまでどのような影響をもたらしてきたでしょうか。インターネットの普及、スマートフォンの進展、さらにはAIの高度化等により私たちは、遠く離れた家族や友人と即座にコミュニケーションが取れる、必要な知識を瞬時に得られる、日常の様々な手続きが効率化される等、デジタル技術の進展は、私たちが生活していくうえでの選択肢を大きく押し拡げ、新たな利便性をもたらしていくことで私たちの幸福を拡張してきたと考えられます。一方、デジタル技術が単に利便性を高めているだけではないという点への理解も重要です。情報の流れを変えることで人と人との距離感を変え、さらに意思決定のプロセスをも変えることで社会構造そのものにも影響を及ぼす、つまりデジタルとは、人と人、人と社会との「関係性そのもの」を再構成しうる技術としても存在し続けてきており、この観点からも人々の幸福というものに影響を及ぼしてきたのではないかと思われます。
こういった中、近年では幸福というもの自体をデジタルで表現しようとする試みも進展してきています。いわゆる「幸福度指標」や「ウェルビーイング指標」といったものであり、個人や地域、さらには国家レベルにおいて、その状態を数値化し、分析可能な形で把握しようとする動きです。これには大きな意義があります。なぜなら、これまで曖昧であった幸福という概念を、一定の指標として可視化することで、政策や施策の方向性をより具体的に検討することが可能になるからです。例えば、所得や経済成長だけでは捉えきれない生活の質や社会的つながりといった要素を評価に組み込むことで、より多面的な社会のあり方を検討することができるようになります。
しかしながら、このアプローチには慎重な視点も必要ではないかと個人的には考えます。幸福を数値化するということは、ある種の評価軸を設定することに他なりません。その評価軸は「何を重視し、何を捨象しているのか」、数値として表現された幸福は「どの範囲の現実を定義できているのか」、さらには統計分析的視点からも言及すれば、そもそも「適切な母集団を定義したうえでの数値指標を本当に設定できているのか」等といった点が挙げられます。何よりも重要になってくるのは、「測定できるもの」と「測定が困難なもの」の乖離に対する理解です。例えば、所得や平均寿命といったものは測定可能ですが、「誰とどのような関係の中で生きているのか」「その関係が本人にとってどのような意味を持っているのか」といった点は、標準化された数値指標で測定することは困難です。そもそも関係性の意味とは、その人が置かれた状況や関係性の中で立ち上がり、絶えず変化し続けるものであると思われます。測定可能なものを高度に扱うことを得意とするデジタル技術では、このような流動的で、かつ多種多様な結果、現象をもたらすものを完全に捉えきるには難しい側面があり、従って幸福のデジタル表現に際しては、こういった乖離をどのように理解し表現に組み込んでいくのか、といったような視点を十分持ち合わせていくことが重要であると考えます。
もっとも、幸福をデジタルで表現していこうとする取組み自体を決して否定している訳ではありません。むしろ視野を拡げてみると、この「幸福をデジタルで表現する」という取組みは、より本質的な可能性を持っているとも考えられます。私たちは幸福というものをついつい人間にとっての幸福という視点に偏りがちです。しかしながら、人間以外の他の生命体、さらには自然を含めた地球環境全体等に目を向ければ、そこには様々な切り口からの幸福というものが存在しているはずです。そしてそれらは、それぞれが独立して成立するものではなく、相互に依存しながら成り立っています。このことが幸福の本質的領域なのではないかと思います。簡単な例でいえば、ある地域における経済的発展が人間にとっての幸福を高めたとしても、それが自然環境に大きな負荷を与えているのであれば、その関係性全体(全体幸福)とはどのように評価されるべきなのか、といったようなことです。こうした問いに対し、デジタルというものは有効に機能していくと考えられます。様々な切り口からの幸福をデジタルで表現することで、それぞれの幸福相互の関係性に対する多様なデータ分析が可能となり、例えば、この分野の関与は少し抑え目にし、この分野の関与はもっと大きくしていく等といった「幸福度から鑑みた全体バランスの在り方」を客観的視点から多面的にシミュレーションしていくことができるようになるからです。
つまり、幸福をデジタル化し再現性のある形で扱うことの意義とは、単に人間社会の領域の最適化を図る、という側面にとどまらず、より広範な関係性の中での最適化、すなわち社会全体や地球規模での調和等を検討するためのデータ基盤のひとつを構築する、ということなのではないでしょうか。ただし、ここにおいて重要なのは、前述したとおり、評価軸に対する追求です。つまりそれは「何を幸福とみなすのか」という前提そのものを常に問い続ける姿勢の重要性です。その姿勢の基本にあるものとは、多様な幸福の関係性をいかに理解していく努力を続けていくか、ということだと思います。米国の心理学者であり哲学者でもあるウィリアム・ジェームズは、「幸福とは、自己の内面の状態と外界との調和にほかならない」という趣旨の言葉を残しています。この言葉は、幸福が単独で完結するものではなく、内面と外界、すなわち様々な関係性の中で成立するものであることを示唆しているのではないでしょうか。人と人との関係、社会との関係、自然との関係、その中で私たちは影響を受け、また影響を与えながら、幸福という感覚を形づくっているのだと思われます。そうであるならば、幸福とは個別に完結するものではなく、相互に連関し合う構造の中で理解されるべきものなのでしょう。デジタル技術は、この「関係性」を可視化し、分析し、再構成するための強力な手段となり得ます。幸福のデジタル表現の本質も、この「関係性を扱う技術」の延長線上にあるのだろうと思うところです。
さて、みなさんは本日、どのような瞬間に幸福を感じたでしょうか。
その幸福は、どのような出来事や関係性の中から生まれてきたものだったのでしょうか。
そして、その先にはどのような影響が拡がっていくのでしょうか。
私たちはつい、幸福を自分自身の内側だけのものとして捉えがちですが、その背景や連なりに目を向けてみると、そこには思いのほか多くの要素が関わっていることに気づかされます。デジタルが高度化し、様々なものが可視化されていく時代、私たちに求められているのは、見えるものを増やすことだけではなく、その背後にある関係性をどのように読み解き、どのような未来につなげていくのかを考えることなのかもしれません。幸福という極めて人間的なテーマに対して、デジタルという手段がどのような役割を果たし得るのか、改めて一度考えてみる時間も必要なのかもしれませんね。
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